我的杯子に詰め込まれた我的輩子の話です。

ある猫

2年余り気にかけて来たキジトラの猫がいます。

最初はお兄さん猫の後ろにいつも隠れて、お兄さん猫が食べ終わってからカリカリを食べ、お兄さん猫が飲み終わったコップの水を飲んでいました。

物音がするとお兄さん猫と同じポーズで同じ向きに同じ角度で首をかしげる男の子でした。

お兄さん猫が亡くなってから何日も、二人で住んでいたダンボールハウスのにおいを嗅いでいました。その頃ようやく、声を出してニャーと鳴くことを覚えました。

甘える日もあれば、理由もわからず機嫌の悪い日が続くこともあって、機嫌が悪ければコップの水には目もくれず、水たまりの水を飲んでいました。

夏頃、捨てられてしまったのか、新入りのさび猫と仲良くなりました。キジトラは、毎晩さび猫の帰りを待ってからカリカリを食べ、さび猫が飲んでから水を飲むようになりました。さび猫が帰って来ない夜はふて寝していましたが、夜遅くさび猫が帰ってくると走り寄り、鼻先同士くっつけました。

ある時、二人は引っ越して、警備員さんが来ない食堂裏に住むようになりました。そしてしばらくすると、キジトラはあまり姿を見せなくなりました。

たまにキジトラが戻って来ると、痩せていることがわかりました。でも、人間が近寄れない場所に陣取って、機嫌悪そうに眼を閉じて知らん顔をしていました。ある時、ささみのゆで汁を持って行きましたら、どこにそんな体力があるのかすっと降りて来て、コップに半分ほども飲みました。

2週間近く前に会った時、随分痩せていて、なでると背骨や大腿骨の位置がわかるほどでした。その頃初めて、キジトラが長く鳴くようになったことを知りました。

昨夜、キジトラは仁王立ちになった足の間に寝そべって、ゴロゴロ言いながらじっとしていました。初めてのことです。しばらくすると私の周りをぐるぐる回り、ニャーオニャーオと鳴いたり、ゴロゴロ言いながら、左横にぴったりくっついて寝そべりました。風もなく、人も通らず、しばらくそのままでいました。私の右側30センチほどの所に、さび猫が香箱座りをしました。さび猫は時々、こちらを見つめてきます。キジトラの頭を見下ろしても、スカートの裾に半分隠れて見えません。少し体を曲げて覗き込むと、キジトラの両目はほとんど開かなくなっていました。体はいよいよ痩せていて、もう何も食べられないようです。

さび猫がどこかへ消え、私も帰る支度をし、動かないキジトラの傍を離れました。途中で振り返ると、キジトラが細い足で追いかけて来るように見えました。寒いから、おうちに帰ろうね。そう声をかけて前を向き、もう一度振り向くと、キジトラの姿は見えませんでした。