我的杯子に詰め込まれた我的輩子の話です。

トチコー様

「旧暦の二月二日は、トチコー様の誕生日なんだよ」という台詞が、『インターフォン』という短編小説の中にあります。那覇のマンションに住んで「あたしは台湾人だ、正真正銘の台湾人」と言うおばあちゃんが出て来る話です。私の脳裡では、平とみさんの声で。

午後、古い本のページをめくっていたら、冒頭の言葉を思い出しました。きっかけは、Tan Chee-BengのChinese Religeous Expressions in Post-Mao Yongchun, Fujian(毛沢東後の福建省永春における中国の宗教表現)という文章。泉州から車で2時間ほど走った所にある福建省の村の、最も身近な信仰対象として紹介されていたのが土地公様です。土地公様への感謝を表す現地の言葉はsia to-ti(察するに謝土帝かしら)と書いてありました。呟くように音読してみて、あーあれか、と。

短編小説の舞台になった那覇の土地公様を訪ねた時、土地公を表わす「土帝君」の文字に「トウティクー」とフリガナがついていました。あれ、閩南語の音を表記したものだったのでしょうか。

私は閩南語ができません。土地公様を訪ねた沖縄の歴史も言葉も知りません。でも、台湾で漢人が住んでいる場所ならほぼ必ず土地公様が彼方此方に祀られていることは知っています。

確信はないのですけれど、頭の中でようやく、福建、台湾、沖縄が一本の糸で繋がった気がしました。短編小説と香港の学者の論文と那覇の土地公様が、一点で交わった・・・感じです。

この3地域が文化的な共通性を持っているのは不思議ではありません。それを頭でわかっていても、感覚的につかむというのは、また別のことだと思います。土地公様を追っていてわかったことではなくて、他のことを見たり聞いたり読んだりしているうちに、浮かび上がってきた一本の糸。まどろっこしい探り方ですが、他に方法を知りません。でも、こうして姿を現した糸にたまらなく魅力を感じます。

それにしても土地公様、長旅でしたね。あなたが辿ったルート、私もいつか辿ってみたいと思っています。

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