花蓮県光復郷のタバラン小学校の校長先生に頂いた絵本『Where is Mom?』(黃惠玲著、絵は黃惠玲と西林小学校、2016年出版)を簡単に訳してみました。即興ですので、もっと的確な日本語があると思いますが、感じは伝わると思います。この本は、ドイツで一番売れた絵本になったと伺いました。英語とタロコ語で書いてあります。原住民の子供たちの心情が優しく描かれた物語です。
母さんはどこ?
日が暮れようとしているのに母さんは帰って来ない。
テーブルの上に晩御飯はないし、私たちを迎えてくれる笑顔もない。
母さんはどこ?
まだ山から下りていないのかしら。シダの葉を拾っているのかしら。
ヒメクマヤナギを集めているのかしら?rmala(不明)を集めているのかしら?
日が暮れた。空が暗くなってきた。母さんはまだ帰らない。母さんはどこ?
もしかしたら、クマに追いかけられて怪我をしたのかも。
もしかしたら、猪に追いかけられて落ちちゃったのかも。
もしかしたら、蛇に咬まれて、それで・・・
家の中が空のように暗くなってきた。私の心も暗くなるよ。
もう月があんなに高くなっているのに、母さんはまだ帰らない。母さんはどこ?探しに行こうかしら。
夜は更けて、真っ暗よ。
私たち、心細いし怖いよ。
たぶん母さんも怖いんだ。お月様、どうか母さんに怖がらないでと伝えてほしい。
私たちはここで待っている。宿題もやったし、良い子にしている。
瞳は眠くて閉じそうなのに、心はまだ眠れない。
日がまた昇ったよ。母さんは帰ってきた?
ううん、部屋にはいない。台所にもいない。母さんがいないと家は空っぽ。
私の心も空っぽ。
あれ、何か聞こえる。走って玄関へ行った。
母さんがいた。
「母さん、どこにいたの。私たち怖かったのよ」。
私は母さんに抱きついた。
「ひどい霧が出て、迷ってしまったのよ」。母さんは言う。
「ええ、それでどうしたの」
「運よく洞穴を見つけたの」
「クマに追いかけられなかった?」
「ええ」
「猪にケガさせられなかった?」
「ええ」
「蛇に咬まれなかった?」
「ええ」母さんはニッコリ微笑んだ。
でも、母さんの手や腕にヒメクマヤナギの棘がいっぱい刺さっているのを見て
私の心も痛んだ。
「ごらん、こんなにたくさん野草をとったのよ。これを売ったらお金になるわ。でも、しおれる前に急がなくちゃ」
母さんは急いで出かけた。
rmalaを背負い、一方の肩にシダの葉を、もう一方にヒメクマヤナギをかけた。
まるで走るようにとても速く歩いて行く母さんを見送った。
とても速いから、私が「気をつけて、母さん、早く帰ってね」と言ったことなど聞こえていない。
野草を売るのはまる一日かかるのよ。
でも母さんは町で道に迷ったりしないとわかってる。
今夜はうちに帰って来る。
きっと帰ってくる。